SATURNO ©︎LINO TAGLIAPIETRA

「心に残る名品」

  佐藤 聡(ガラス作家)

 

佐藤:私の心に残る名品は、Lino TagliapietraさんのSATURNOシリーズです。Linoさんは、世界中の吹きガラスをやっている人は間接的に何かしら影響を受けているであろう、現代における吹きガラス界の巨匠です。SATURNOシリーズは、真ん中が膨れていて、土星のように周りに輪っかがあるとても大きな作品で、グラスアート界では大変有名なシリーズです。初めて知ったのは富山ガラス造形研究所に入学して間もない時でした。当時はどうやって作られているのかが全くわからず、造形的な面白さも衝撃的だったことを覚えています。    

 

当時、建築分野からガラスの世界に入りたいと飛び込み、学校で吹きガラスを始めてみたら本当に何もできなくて絶望しました。 なんの変哲もない普通のコップが作れない。一回の授業で与えられる吹きの作業時間が1時間半くらいですが、全部の時間でも一つのコップが作れない。当時、本当に作れるようになることがイメージできず、こんなんでこの先やって行けるのかと心配になっていました。そんな時にこの作品を知り、その美しさと作品名のように土星のように遥か彼方、自分には絶対辿り着けないと思うような凄さを感じました。  

 

建築やデザインは頭の中で考えたことを図面化してそれが施工者によって形になりますが、吹きガラスは自分でやってみると頭の中のイメージより作っているまさにそのものが強くて、作りながらそっちへ引っ張られてしまう。その当時見ていた色々なガラス作品の中には、そんな風に作られた作品が多いのかなと感じていましたが、この作品を見たときにはそんなブレが微塵もない感じで。そしてお前もやるなら頑張れよと見せつけられているような気がしたんです。まだ自分が駆け出しのその頃、そんなことを感じた作品を今回名品としてご紹介しました。  

 

Linoさんは15世紀からずっと続いているベネチアン・グラスの家系の人で、アメリカに渡り、今はもう86歳になるけれど、現役で制作活動をされています。ベネチアン・グラスはその技をあまりオープンにしなかった歴史があります、ですがLinoさんはアメリカに渡って自由な作品を作り、さらに世界中でデモやワークショップをして、その技を見せ伝えました。そして伝統的な工房に生まれているので、若い時は伝統的なゴブレットなどもたくさん作っていて、そういったものは受け継いだ技で見事なものを口笛吹きながら作ります。歳を重ねて今はそういった全てを受け継いで、文化を継承され、さらに自分の作品を展開しておられる。自分としてはそういった文化の流れや受け継ぐという意味もまた意識するようになったきっかけを与えてくれた人でもあります。 

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SATURNO ©︎LINO TAGLIAPIETRA

事務局 (Q): 学校を卒業されて、これまで色々なものを見られてきた今、この作品をどう見られていますか?  

 

佐藤: 今自分が作りたいと思うものはこの作品とはもちろん違いますが、この人の作るスタイルは今でも憧れています。今年初めに不注意で自分の手を痛めてしまいました。このことで身体をキープし続け、作り続けるということがどれだけ大変かを身をもって感じているので、86歳になった今でも制作されているスタイルを尊敬しています。そしてこの作品は今でも遠くにある星って感じで、僕にとって象徴的なものです。    

 

自分の事になると、これまではきっちりとした端正な形に興味があって、そんなものを作ってきた気がします、今は(溶けたガラスの)液体が流れていくさま、流れることによる時間の経過や重力などに興味があって、そんなことをガラスで表現したいと思うようになりました。  Linoさんはまさに西洋のモノづくりを高度に体現した人ですが、自分はこの地で育った感覚をものづくりに反映させてみたい。例えば虫の鳴き声を外国人はノイズを感じる脳の部位で聞いているけれど、日本人は音楽を聴く時の部位で聴いているという話がありますが、そんな違いとでも言いますか、そういった美意識、自然観のようなものが形として作り出せたらいいなと考え始めています。

お店(PONTE)に並ぶ作品

Q: あしたの畑ではこれからどのようなことを考えられていますか?  

 

佐藤: あしたの畑という大きなテーマに対して自分が出来る事を考えると、最初は作り手としての立場から自らの手でロンデル(円盤上のガラス/窓などに使う)とかを作っていました。それは僕個人の作品的な性格のものになります。ですが自分が作るのではなく、例えば様々な人が作り次世代に繋げていけるようなものといった展開を考えたいと思い始めています。その土地や風土から作り出せるもの、それをその土地の人が協力して作るといったようなことはできないのか、まだ細部までははっきりしていませんが、そんな方向性があしたの畑には向いているのではないかと思っています。